大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和53年(ワ)11507号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

2 そこで、次に、再抗弁事実2<編注・借地法六条の異議の正当事由の存否>について判断する。

<証拠>によれば、原告は、本件土地の近接地で育ち、婚姻後も同地に居住していたが、昭和二〇年に戦災のため居宅を失い、妻米子の実家のある静岡市に疎開して昭和二六年には現在原告の肩書住所地に家屋を建築し、爾来同所に居住し、静岡市内の高等学校の教師をしてきたこと、右家屋及びその敷地約九〇坪は所有するものであるが、東京には本件土地以外に土地を所有していないこと、原告夫婦には一男二女の子供があり、長女紀子は結婚して静岡県富士市に居住し、長男治男は現在妻と二人の子供とともに東京都板橋区のマンションに居住し、二女玲子は原告夫婦と同居して国立静岡大学附属図書館に勤務していること、原告は大正二年生れで老齢に向つて心身の衰えを感じ、米子とともに治男との同居を希望し、治男夫婦もその心算であり、紀子及び玲子としてもそれを願つていること、治男は訴外株式会社大沢商会に勤務し、本件賃貸借契約の期間満了時である昭和五三年九月当時は仙台営業所に配属されて仙台市に居住していたが、昭和五四年八月東京本社に転勤となり、同社が民間から借り上げて社宅としている前記マンションに居住するに至つたこと、右マンションは六畳、六畳、三畳にキッチンのいわゆる3Kで、原告夫婦と同居する空間的余裕がないこと、治男は就労部門の関係で今後は転勤をほとんど考えなくてよいこと、原告は、本件土地に建物を建築して治男と同居することを期待しており、その建築資金は前記自宅を処分して捻出するつもりであることを認めることができる。

他方、被告が日本舞踊の名取りとして本件建物に稽古場を設け、弟子を指導していたことは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、被告は、昭和三三年、改築前の本件建物とその敷地である本件土地の賃借権を買い受け、原告に対し、当時の賃料の約五年七か月分に相当する二〇万円の名義書換料ないし権利金を支払つて本件賃貸借契約を締結したこと、本件土地は原告の祖父の代から賃貸に出されており、本件賃貸借契約中には更新を予想した条項があつたこと、被告は、本件建物に母(明治三七年生まれ)及び娘(昭和三四年生まれ)とともに居住していること、被告は、出稽古を含め弟子達から受け取る教授料や新作舞踊の振付料で生活をしていること、被告には本件建物のほかには不動産を所有していないことを認めることができる。

以上の事実によれば、原告側にはそれなりに自ら本件土地を使用することを必要としていることを認めることができなくはないが、被告が本件土地を明渡さなければならないとすれば早速に路頭に迷うことになることを考慮すると、被告が本件土地を使用することを必要とする程度は、現に自宅を有する原告に比べてはるかに高いというべく、したがつて、原告の異議の陳述には正当な事由があるとはいえない。

原告は、予備的に本件庭部分上にある本件建物部分の収去による右庭部分の明渡を請求するので、以下においてその部分についての正当事由の有無を判断する(右予備的請求は、主位的請求と訴訟物を異にしないから、本来的な意味での予備的請求ではないと考えられるが、原告が仮定的に請求を一部に限定するとした場合における範囲を示した趣旨で予備的請求に準じて判断する。)

<証拠>によれば、本件土地の面積は、不動産登記簿上332.69平方メートルであるが、実測では333.64平方メートルであること、本件庭部分152.26平方メートルには、本件建物の東南隅が一部存するだけで、その大部分は庭であること、本件庭部分には、建築基準法上三階建170.67平方メートルの建物の建築が可能であることを認めることができる。しかし、<証拠>によれば、本件庭部分は、本件土地の東南部分に位置し、その一部は芝地であり、その東側に花壇、井戸、庭石が設置され、本件建物からみて右芝地の奥に庭樹が植栽された日本式の庭であること、本件庭部分の東北側に本件建物に出入りするための門があり、右門が使えず他に出入口を設けるとすると、本件建物の構造をも一部変更する必要がでてくるおそれがあること、被告が新作舞踊の振付けの構想をねるため、また、日本舞踊の稽古の環境として庭があることが望ましいことも認めることができる。

これらの事実に前記原告側、被告側双方の事情を較量すると、本件庭部分に限定した異議には、原告側の本件土地使用の範囲を最少限に譲歩することによつて被告の本件建物における居住を確保しようとするものであるから、相当程度の正当事由を充すものということができるが、本件庭部分は被告の職業上本件建物と一体をなすものとみるべきであるから、本件庭部分に限つてみても、いまだ原告の異議に正当事由があるとはいい難い。

そうとすれば、本件賃貸借契約は、借地法六条によつて更新されたといわなければならない。

(並木茂)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!